美少女プリンセス強制妊娠計画(密室調教合宿の儀) 岳瀬浩司 著

第二章  悪夢のプロローグ

 

 

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(ゴォォォ―ッ、ゴゴォォォ―ッ―――――)

遠くで風の巻くような音が聞こえている・・・・。

どこから流れてくるのであろうか。どんよりと漂ってくる生暖かい空気は、たちまちに素肌をジットリと汗ばませてしまうほどだ。

(とても息苦しい・・・・。しかも何故か身体がひどく重い・・・・)

しかし、これだけ五感がはっきりしているのに指先すらも動かすことが出来ない。目を開けることさえ出来ないのだ。

オレンジ色に揺らめく灯りが薄いまぶたに透けて遠くに映る・・・・。

(ここは一体どこなの? どうして身体がいうことを利かないの・・・・?)

心の中で自問してみても思考がうまく働かない。ここの熱気のせいだ。意識と感覚が甦った今でも、頭の一部分が白い霧のようなもので覆われているような感覚だ。

しかし、自分の身の置かれている状況は、とても常識では考えることが出来ない。まったく衣服を身に着けていないのだ。しかも縄のロープのようなものが手足に結ばれ、身体を大の字に仰向けにされている。ワラの上に直接身を置いているのが、はっきりと背中を通して伝わってくる。

(これは一体どういうことなの? どうして私がこんな目に遭わなくちゃいけないの?)

覚醒しきった少女の意識に、五感から伝わる情報が交錯し、パニックを引き起こす―――。しかし、叫びたくとも声が出せない・・・・。

そんな時である。ワラを踏む音がして、「何か」が近づいてくる気配がしたのは・・・・。

やがて首筋に一瞬「チクッ」と針のような物を刺された。が、余り痛みは感じられない。

しばらくすると、あれほど重かったまぶたが開くようになった。見開いた可憐で大きな瞳が瞬く間に眩しい光に翻弄される。それでも必死に目を凝らして周囲の状況を探ろうとすると、ようやくと光源の正体がはっきりとした。ロウソクの炎だったのだ!

ようやく身体にも力が入るようになった。しかし、やはり手足はしっかりと拘束されている。動かせるのは顔だけだ。キョロキョロと周囲を見渡せば見渡すほど、自分には馴染みではない場所であることに不安を覚えるばかりだ。

―――木造の古い部屋・・・・しかも狭くて天井も低い。窓も見当たらない・・・・。まるで物置小屋か動物の檻にでもいるような錯覚を覚えてしまう・・・・。

一体何故自分がこんな場所に監禁されているのか、頭の中の一部がぼやけていて、どうしても前後の記憶が思い出せない。とうとう少女は悲しくなってしまった‥‥。

「どうしてなの・・・・。誰か・・・・誰か助けて・・・・」

ようやくと動くようになったあどけなさの残る口元からポツリとそう呟いた少女の声に、しわがれた男の低い声が応えた。

「目が醒めたようですな、サラ姫様、フッフッフッ―――」

そうなのだ。この監禁されている少女こそまさに、ロイ―タ王国のプリンセス、ゴージャンヌ=サラ王女だったのである。

何の前触れも気配もなく、突如身近に響いた声を聞いて、サラ姫の瞳に恐怖が走った。咄嗟に声がした自分の足元の方向に顔を向ける―――。

ロウソクの灯りが届かぬ薄暗い部屋の隅に、何やら蠢く物体が存在しているのに気づかされる。いや、それは人間だ! 裸になった初老の男性があぐらをかいて座っていたのだ!

「ヒッ―――!」

サラ姫は引きつった悲鳴を上げた。男性がのろのろと立ち上がったのである。その姿を見たサラ姫は驚愕せずにはいられない。上半身どころか下半身も裸だったのだ。そんな老人が突然、股間に黒ずんだダラリとしたものをぶら下げて、少女の側に近付いてきたのである。

「いっ、いやぁあっ!」

恐怖の余り短い悲鳴を上げるサラ姫は、思わず顔を背けて目を堅くつぶった。全裸の少女の全身はブルブルと震えている。そんな怯え切っている少女に、不気味な老人は卑猥な質感が漂う皺枯れた声で話しかける―――。

「サラ姫様、お久しぶりにございます。かれこれ四年ぶりになりますかな。よもや私をお忘れになられてはおりますまい、フッフッフッ―――」

その声にサラ姫はハッとした。男の顔を確かめようと恐る恐る顔を正面に向ける。

「グ、グレイルではないですか!・・・・これは一体どういうことです! しかもそのように裸で私の前に現れるとは無礼な! すぐにこの縄を解いて私を自由にしなさい!」

サラ姫はどうやらこの老人を知っているらしい。全裸のまま仰向けに、しかも大の字にされて、床に敷き詰められたワラの上に固定されるという気が遠くなるような恥ずかしい格好を取らされていながらも、彼女は気丈な態度を示そうと、「キリッ」とした視線で老人の顔を見つめ、語気を強めてそう言い放った。

臣下の前ではいつでも毅然と振舞う性格は、おそらくは国王である父親譲りのものであろう。未だそこかしこに幼さを残す顔に似て、あどけなさ漂う可愛らしい声ではあったが、一点の曇りもない透き通った瞳にまじまじと見つめられてこうも厳しく叱責されては、さすがにこのグレイルという老人も多少の戸惑いを覚えてしまったようだ。

「うーん、手厳しいことをお言いですなぁ・・・・」

白髪の混じる薄い頭をポリポリと掻きながら、全裸の老人はしばし俯いてしまった。何やらブツブツと独り言を呟いているようだったが、サラ姫には少しも聞き取れるものではない。部屋の外から聞こえてくる激しく風が巻く音が、老人の低い声を簡単に打ち消してしまうためだ。そのことが一層、少女の心を不安にさせる。何も言い出すことすら出来ずに、グレイルの様子をただ見つめるばかりだ。

目の前に座り込んでいる老人は既に七十に近い。薄い髪の毛にも多くの白髪が混じっている。全身にもシミや皺が目立ち、もはや寿命も尽きようとしている容貌だ。黒ずんだ不健康そうな黄土色の肌に顔だけが異様に脂ぎっている。まるで何から何まですべてが、若く萌え始めたばかりの十六歳のサラ姫とは完全に対比しているようである。

実はこのグレイルという老人、遠縁ではあるが王家の親戚に当たる―――つまりはれっきとした貴族なのだ。しかし、貴族とはいっても彼の場合、現国王との血縁関係が七親等以下であり、最も低い爵位であった為、貴族特権はほとんどなく、勤労によって身を立てねばならぬ立場であった。しかし彼は医学の分野でその名を世に大きく広めており、その医術の腕前はロイ―タで一番と認められるほど優秀で、国の最高医療機関たる「王立病院」の院長を務めるほどなのだ。しかも長年に渡り王宮の医務局長を務めている。つまり、ジェイバッハ王家の主治医なのだ。そして彼の一人息子であるケッベルは何と国王親衛隊の隊長を務め、多くの兵士たちを指揮する立場にある。どちらもサラ姫の父であるゴージャンヌ八世によって登用されたものだ。つまり、ジェイバッハ王家にとっては、親子共に最も重要な存在であり、その信頼の高さというものは、他の爵位の高い貴族たちと比べても、決して勝るとも劣らない厚いものだったのである。

実はサラ自身も幼い頃から、このグレイルの診察を受けて育ったのだ。幼い頃のサラは、毎日行われる健康診断の後で、よくこの老人に遊んでもらったものだ。しかし、やがて年頃になった彼女は、定期的に行われるグレイルの診察を拒むようになっていった。時折感じるグレイルの自分の裸を舐め回すような視線に抵抗を覚え始めていたからである。ちょうどその頃、彼女が初潮を迎えたこともあって、診察には王妃専属の女医が付くことになった。それ以来、サラは王宮の中でグレイルと顔を合わしたことは一度もない。グレイルの言ったとおり、それから四年近くの月日が経とうとしていたのだ。

「なぜ私がこんなところに・・・・? ここは一体何処なのですか!」

胸に込み上げた不安が堰を切ってほとばしり、小刻みに震えながらサラ姫は、俯いたままのグレイルに今にも泣きそうな声で問いただした。

「ここは衛星コプラにある私の秘密の研究施設です。ようこそサラ姫様、クックックッ―――」

そう言いながら老医師の顔がゆっくりと持ち上がる。

「コプラですって? そんな・・・・」

少女は言葉を失ってしまった。どうやら自分が気を失っている間に、惑星ロイータから衛星コプラへ連れ去られてしまったらしいのだ。

(一体どうして、こんな辺ぴな星に・・・・?)

サラ姫は複雑な表情を浮かべた。

コプラ』は惑星ロイータの唯一の衛星で、地球にたとえるならば「月」のようなものである。ところがこのコプラという衛星には、ロイータ同様に大気と水が存在するのだ。しかし、火山が多くて気温と湿度が高いのでジメジメして蒸し暑く、あまり人類が移り住むには適していない。勿論そんな環境下に他の知的生命体も栄えてはいない。つまり、このコプラは無人の衛星なのである。グレイルがこんな辺ぴな星に秘密の研究機関を持っていることなど、誰も知る者はいないだろう。ましてやロイータからコプラまでは、惑星と衛星が最接近した場合でも、光速艇(スターシップ)を使っても丸二日はかかるのである。しかも大きさはロイータの約4分の1に過ぎない小さな衛星ながら、重力は何とロイータの約2倍もあるのだ。どうりで華奢で小柄なはずのサラ姫が身体を重く感じたはずである。しかし、サラ姫は衛星コプラの環境について、その過重力状態の事実だけはまったく知らなかったのである。

「どうして、コプラなんかに・・・・」

そうポツリと呟いたサラ姫は、意識を失ってしまう以前のことを思い起こそうと、遠くを見つめて精一杯記憶の糸を辿り始めた。しかし、やはりこんな状況に陥る前の肝心な記憶がどうしても思い起こせない・・・・。と、そんな時、前触れもなく突然、油断していたサラ姫の身体に向かって、グレイルの皺だらけの手が伸び、彼女の素肌をジンワリと撫で回し始めたのだ!

「イッ、イヤーッ! やめなさいっ、グレイル! 無礼者っ、なりませんっ、ウッ、いやぁあああっ―――!」

不意の侵蝕に少女の身体がビクンとのけ反る。しかし、手足を大の字にしっかりと固定されてしまっていては、何ら抵抗できるものではない。すべては老人の手のひらの成すがままである。

「ううっ、いやぁぁっ!」

サラ姫の瑞々しい肢体がくねり波打つ。老人の手のひらが全身を這う余りにおぞましい感覚に、少女の繊細で透けるように白い素肌が鳥肌立っている。それでもグレイルの手のひらは休むことなく、サラ姫の瑞々しい身体を堪能し続ける。

「四年前まではまだまだ子供だったのに、しばらくお目にかからぬうちに、ここもずいぶんと膨らんで・・・・、サラ姫様の身体もずいぶんと大人になりましたなぁ。やはりここまでお育ちになられるまでの成長過程を、この目でしっかりと観察したかったものです。いや、それはこれからでも遅くはありませんな、ヒッヒッヒッ―――」

グレイルは舐め回すような淫猥な眼差しで、サラ姫の瑞々しい肉体を隅々まで観察しながら、そうしみじみと呟いた。その言葉を聞いて、一瞬のうちに少女の以前から抱いていた「ある疑念」が「確信」へと変化する。

《―――やはり以前からこの老医師は、わたしを診察していた時、淫猥な眼差しでわたしのからだを見ていたのだ!》

「しかし十五歳でここまでの艶っぽさをお備えになられるとは、これから先が楽しみですなぁ・・・・。やはり王妃様のように、あのように色っぽく御成長なさるのですかねぇ、ヒッヒッヒッ―――」

身の毛もよだつグレイルの手のひらの感触に必死で悶え抗うサラ姫だったが、何故かそんなグレイルの言葉に引っ掛かりを覚えた。何の意味も成さないのは承知だが、この卑怯な老人に対する反抗心が彼女の口を自然に開かせたのだ。

「ウッ、私はもう十五ではありません! すでに十六になりました。クウゥゥッ―――!、・・・・!?」

自分の口を衝いて出たその言葉に、サラ姫の脳裏で何かが弾けた。

(そうだわ! 私は十六歳の誕生日を迎えたのよ! そしてミッシェル様と・・・・!)

今まで頭の片隅を覆っていた白い霧のようなものが、瞬く間に消失していく―――。そして遂にサラ姫は思い出したのだ。この辺ぴな衛星に連れてこられるまでの記憶を・・・・。

 

 


 

 

 あの日は少女にとって最高の幸せと喜びに包まれた日であった―――。

十六歳の誕生日を迎えたその日の夕刻、サラは幼い頃からの許婚であったミッシェルと、実に七年ぶりの再会を果たしたのだ。遂に少女は幼い頃から夢見てきた、愛する若者との結婚に望むのである。

七年ぶりに対面したミッシェルは、サラが思い描いていた通りの、いや、それ以上に凛々しくも逞しい若者に成長していて、彼女の心を激しく感動させた。背は彼女よりも遥かに高く、体格とて王宮警護の任にあたる衛士たちにも引けを取らぬ立派なものだ。何より彼女にとって想い出深かった、彼のその輝くような爽やかな笑顔は、少しも昔と変わっていなかったのである。

「・・・・ミッシェルさま・・・・。サラはこの日が来ることを、ずっと長い間夢見て過ごして参りました・・・・」

大きな瞳を潤ませながら万感たる想いを口にする少女の声は、いつになく淑やかでいじらしいばかりである。

「僕もだよサラ姫・・・・。でも、こんなにも美しくおなりになっていたとは・・・・まるで小さい頃のおてんば振りが嘘みたいだ」

ミッシェルとてサラ姫の成長ぶりに喜びと感動を隠し切れない。二人は国王と王妃の前にも関わらず、久しぶりの再会に感極まってしまい、熱く見つめ合うばかりでなく、遂には「ヒシッ」と抱き合ってしまっていた。若い二人にとって七年の歳月は、それほどまでに長い時間であり、相手を想う気持ちを更に大きなものへと育んでいたのだ。

今宵から二人は晴れて夫婦となるのだ。サラ姫はどんなにこの日を心待ちにし、そしてどんなに心と身体の準備をしていたことだろう。

実はロイータでは古くからの習慣により、親族を集めた結婚式のようなものは一切行われないのが普通である。男女の交わり(契り)こそが、結婚の誓約と見なされるのだ。王家もそれは例外ではない。よって二人の結婚の事実は、初夜を無事終えた翌日、広く国民に発表される運びとなっている。つまり二人が共に暮らし始め、寝屋を共にしたからといって、それで夫婦と認められたことにはならないのである。

サラ姫とミッシェルが夫婦となったことを周囲の人々に認めてもらうためには、サラ姫の処女がミッシェルによって貫かれたことを示す、破瓜の鮮血が染み込んだ白いシーツを、国王である父に見てもらうばかりか、広く国民の前にも示さねばならない。そしてそのシーツをミッシェルと共に掲げ持って、サラ姫は生まれて初めて多くの民衆たちの前に、その美しく可憐な姿を見せることとなっているのだ。

「殿方」を受け入れた証が染み込んだシーツを携えて、多くの国民の前に立つなど、サラ姫には気が遠くなるほどに恥ずかしいことではある。しかしそれが王家に伝わる伝統なのだ。そうしなければ若い二人の結婚は周囲の大人たちに認めてもらえないばかりか、やがてはミッシェルの王位継承権の問題にまで波及してしまうのである。サラ姫にしてみれば、やはり周囲の祝福を受けて、二人の絆を確固たるものにしたかった。だからサラ姫は、今日という日を迎えるかなり以前から、そういった風習の存在をしっかりと受け入れる心の準備を済ませていたのである。

だが、もう一つ重要な問題があった。サラ姫の身体の発育状況である。たとえサラ姫の年齢が十六歳に達しようとも、身体が子供のままであれば、ミッシェルと肉体的に結ばれることはまず不可能である。ただでさえ小柄で、まだその身体が発育途中にあるサラ姫にとっては、これが一番の心配事であったようだ。

しかしサラ姫は、いじらしい努力を周囲に見せつけた―――。

学校に通わぬサラ姫が、自分の体の成長が他の少女達と比べて遅いことに気付いたのは12歳になってからである。母のティセラも小柄で成長が遅かったのに比べれば、彼女はまだ発育が良いほうだったかもしれない。しかし、少女は比較する相手を間違えていたのだ。王宮に仕える20歳前後の艶やかさを漂わせた女性たちと自身の身体を比較するものだから、どうしても自分の身体が幼稚にしか映らなかったのである。それゆえに少女は、まだ初潮も迎えていなかったというのに、懸命に「大人の女」としての肉体美を得ようとしたのだ。あれ程嫌っていた牛乳を、身長も伸びるし胸も豊かになると教えられると、一日に3度も飲むようになった。睡眠時間を長く取ることが成長を早める秘訣と聞けば、とにかくたくさん寝るように心掛けた。その乙女心たるや、まさにいじらしい限りである。

そんな努力の甲斐あってかサラ姫の肉体は、十六歳にしてはまずまずと言った程度の発育を遂げて、今日という子供の頃から長く待ち侘びた大切な日を迎えたのである。美しきプリンセスにここまで慕われただけでなく、次期国王の椅子をも約束されているミッシェルには、もはや「果報者」などという言葉では片付けられぬ周囲の貴族たちからの激しい嫉妬さえ巻き起こっていた程だ。しかし、愛し合う若い二人にとって、国王の椅子もプリンセスの立場も、相手を想う熱い情熱の前には、身を飾る道具にすら値していなかった。とにかくこうして再会できたこと。そして何より、これからはずっと一緒にいられるという喜びしか、熱く抱き合う若い二人の心の中には存在していなかったのである。

そして遂にそんなサラ姫が、十六年間大切に育んできたものすべてを、ミッシェルに委ねる時がやってきたのである‥‥。

 

 


 

 

 サラ姫の十六歳の誕生日とミッシェルの成人を祝って執り行われた晩餐は、もうすぐ終わりを迎えようとしていた。これはサラ姫にとって国王と王妃の「娘」としての最後の夕食でもある。

なごやかな雰囲気に包まれた晩餐であったが、終わりが近付くにつれて、次第にサラ姫の父であるゴージャンヌ八世の表情は暗く打ち沈んでいった。しかも余り食が進まないらしく、出された料理のほとんどが手付かずで残されている。実は彼はできるだけ陽気に振る舞おうと、ほとんど食事も取らぬままに発泡酒(シャンぺン)ばかり飲んでいたのだ。

しかし最初のうちは陽気に振る舞えた彼であったが、酔えば酔うほどに心の中に押し隠した感情が、心の中に満ち溢れてしまう・・・・。娘が他の男性に取られてしまうようで、とてつもなく悔しいのだ。

無理もないことだ。これほどまでに美しい姫に成長した、たった一人の愛娘が、今宵、他の男性の妻となるのである。何ともいえぬ切なさが胸中にこみ上げてくる‥‥。かといってゴージャンヌ八世は、決してミッシェルを認めていない訳ではなかったのだ。

(この世で最も愛する一人娘のサラの夫として、また次期ロイータ国王として、目の前のミッシェルという若者は、およそ他に探しようもないまでに凛々しくも爽快な青年である―――いや、小さい頃からこの若者は、何か人を引きつけてやまぬ魅力があり、ロイータの次代を担う人物に成長する片鱗を、そこかしこに漂わせていた。だからこそ自分は、彼の父親であるビシュタルク侯爵の提案に賛同し、彼とまだ幼かった溺愛するひとり娘の婚約を認めたのだ。―――やはり自分の先見性に狂いはなかった・・・・)

それはそれで彼には喜ばしいことではある。しかも長年に渡り、若い二人が互いに想いを寄せあっていたことも、彼は充分に理解していたのだ。しかし、自分の向かいに座っている娘の輝くような眩しい笑顔は、まさしく幸福の絶頂にいるような、父親である自分にも今までに見せたこともない程に素晴らしいものであり、隣に座るミッシェルを見つめる時の娘のしっとりと潤んで輝く瞳を見ていると、父親であるゴージャンヌ八世は、娘の心の中にはすでに自分の居場所がないことを嫌という位に思い知らされてしまうのだ。

言いようのない喪失感が彼の心に去来し、つい言葉もないままに、どうしても幸せそうな娘の顔を寂しげに見続けてしまう・・・・。

「まぁ、お父さま。どうなされたの?」

ふとテーブルを挟んで座る父親の寂しげな視線に気付き、サラは不思議そうに父親に問いかける。が、我に返った彼は、娘の呼び掛けに驚いたようにまごつき、思わず視線を伏せてしまった。

「い、いや、何でもない。ただ・・・・」

いつもの凛々しい父らしからぬ元気のない態度に、娘は心配そうに父の方を見つめて問いたずねる。

「いかがなさったの?・・・・まさか、お身体の具合でも、お、お父さまっ!」

そう言ったサラ姫は、たちまち泣き出しそうな表情を見せた。

「あ、いやいや、そうではない」

娘の余りに見当違いな問いかけに、父親は泡をくったように否定するが、既に娘の目には涙が浮かんでしまっている。

(やはりこういう気持ちは隠し通せるものではないものらしい・・・・)

無用な心配をさせるくらいならば、とゴージャンヌ八世は、気恥ずかしそうに額に手を当てながら、ボツリと胸の内を明かし始めた。

「サラも今日から一人前の女性になると思うと、嬉しいやら寂しいやら・・・・。まぁこれは、男親の身勝手な気持ちかのう・・・・」

「お父さま・・・・」

そこにいるのはいつもの毅然とした父ではないことを、娘ははっきりと悟った。そしてその原因が自分にあることも・・・・。

気弱な父を見るに付け、サラ姫は今宵が自分やミッシェルばかりでなく、父や母にとっても、人生に於て特別な日であることを、改めて実感せずにはいられない。これからも一緒に暮らすことになるとはいえ、ただ父と母の子供としてではなく、次期国王であるミッシェルの妻として接してゆかなければならないのである。

「お父さまっ、たとえミッシェルさまの妻となっても、サラはいつまでもお父さまの娘です。住まいは変わっても、きっと毎日、お父さまに御挨拶に参りますわ」

父親の気持ちをようやく察したのか、娘の奇麗な瞳には、更にたくさんの涙が浮かんでいた。

「サ、サラっ・・・・、ウウッ―――」

そうなってしまっては父親とて平静ではいられない。娘のいじらしい言葉を聞いて、遂に感極まって涙ぐんでしまった。

「まぁまぁ陛下ったら、あれほど涙を見せてはならぬと、わたくしに念を押されておいでだったのに・・・・。まさか御自分がお泣きになられるとは・・・・」

ゴージャンヌ八世の隣に座るサラの母である王妃ティセラは、優しく諭すように国王をなだめ、そっと白いハンカチを手渡す。

まだ若い王妃ティセラのその美しくも可憐な容姿は、さすがにサラ姫の生みの親だけのことはあった。ミッシェルも一瞬見とれてしまった程で、国中でも評判の美貌なのである。しかし、評判なのは王妃ティセラの美貌だけではなかった―――。

「陛下の側にはわたくしが付いておりますのに、そんなにお悲しみになられるなんて・・・・。何だかとてもお嫌ですわ。こうなったらわたくしも、どこかの殿方に嫁いでしまおうかしら・・・・?」

「お、おい、なんて突拍子もないことを!」

美しく若い王妃ティセラの大胆な発言に、ゴージャンヌ八世は目を白黒させて動転する。それでも年若い王妃の大胆発言は止まらない。

「そうだわミッシェル! サラとの結婚は辞めちゃって、わたくしと結婚しましょうよ!」

「な、な、何だと?!」

余りに突拍子な王妃の爆弾発言に国王の目が点になってしまった。

「まあっ、何てこと言い出すの、お母さまったら!」

涙ぐんでいたサラまで、血相を変えてティセラの発言に抗議する。冗談とは判っていても、ミッシェルに関することとなると、サラはついついムキになってしまう。

「もう、意地悪ね。冗談に決まっているではありませんか。あらあら、二人とも涙が止まりましたよ。やはりこういう時は、気の利いたジョークが一番ですわ。ホホホホッ―――」

果たして王妃ティセラが、湿っぽい空気を取り払おうとして言ったのか、本気で言ったのか、夫にも娘にも判断がつかない。王妃ティセラはいつもこうなのだ。この無邪気で子供っぽい王妃の性格こそ、国中でその美貌をも凌ぐもっぱらの評判だったのである。

サラ姫の実の母であるティセラは、実は国王の後妻であり、国王とは十九も歳が離れている。しかも彼女は少女時代から、ゴージャンヌ八世と仲睦まじく暮らし、すでに大人の魅力を身につけていた彼の、広くて強い包容力と深い愛情に育まれて過ごしてきたのである。彼女の子供のような感性や無邪気な振る舞いは、きっと彼の温かい庇護がなければ、とうの昔に消え失せてしまうような性質のものだったに違いない。そして若くして国王の一人娘サラを産み、三十歳を過ぎた今でも、その心には子供のような遊び心と感性に満ちあふれていたのである。

実はサラ姫の無邪気さや活発さといった点も、そんな彼女の影響によるところが大きい。しかも、そんな母親に娘のサラは、いつしか年の離れた姉のように接していたのだ。同じようにティセラはティセラで、サラ姫が年頃に近づくにつれて、娘というよりはむしろ可愛い妹に接するような心持ちに自然となってしまっていたのである。

そんな二人の姉妹のような付き合い方は、外見にも良く現れていた。宮仕えをする従者たちの目から見ても、年齢よりも格段に若く見えるティセラと、若々しく艶やかな乙女に成長したサラ姫が一緒に並ぶと、知っていながらも一瞬、姉妹と錯覚してしまうほどであったのだ。

「いや、すまんのうサラ。めでたい日に涙は禁物であるのに・・・・」

ようやくと感情を整え終えた国王は、若い二人の門出を祝うめでたい宴が、涙に濡れてしまったことを心から詫びた。ここロイータでは特にめでたい席で涙を見せるのは、縁起が悪いとされているのだ。

「さあ、記念すべき二人の門出の日だ。二人の時間を大切にしなさい」

(このまま娘の顔を見ていると、またしても感情を抑えられなくなってしまう‥‥)

―――そう感じたゴージャンヌ八世は、宴の終わりを告げて二人の退席を促したのである。

国王の勧めに従うように、若い二人は顔を見合わせ小さくうなずくと、静かに席を立った。

「それでは国王陛下、王妃様、失礼いたします」

広く大きなテーブルの向かいに座るゴージャンヌ八世と王妃ティセラに、ミッシェルは礼儀正しく挨拶を述べて深く頭を下げる。そんなミッシェルに付き従うかのように、サラ姫も静かに頭を下げた。

男親の娘を失う切なさに、胸も張り裂けんばかりのゴージャンヌ八世であったが、懸命に笑顔をつくって無言のままにうなずいた。本当は席を立ち上がって、最後にもう一度だけ娘を抱き締めたかったのであるが、ミッシェルの手前、余り格好のつくものではない。ましてやそんなことになれば、せっかく抑えることができた感情が、瞬く間に心に込み上げて来て、またしても感涙してしまうのは明白であった。

若い二人が背中を向けて、広間を後にしていく―――。国王は黙ったまま寂しそうに、愛娘サラの後ろ姿をいつまでも見送っていた。

「また娘が欲しい? もう一人作りましょうか?」

王妃ティセラはそう言って、無邪気そうに微笑みながら、そんな寂しそうな彼の顔を下から覗き込む。

「ば、馬鹿を申すでない! 私ももう年だ。それに娘はもうこりごりだ!」

―――こんなに悲しい想いをする位なら、娘を持つ身になるものではない―――。

この年になってようやく彼は、娘を持つ男親の気持ちに嫌という程気付かされてしまった。ヒシヒシとそう実感する国王の脳裏に、ふとティセラと出会った頃が思い浮かぶ・・・・。

「しかし、考えても見なかったことだが、そなたの父親も、そなたをわしの手元に預ける時は、さぞかし辛かったであろうのう・・・・。今すぐにでも会って、私への心遣いに深く礼を言いたいものだ・・・・」

ポツリとそう呟いた彼の言葉に、ティセラは驚いたふうに目を丸くする。

「あらまあ・・・・! お父様はすでにお亡くなりになっておられるのよ! まさか・・・・、あなたはわたくしを置いて、お逝きになると言うのですか!」

ティセラは泣きそうな顔をしながら国王に問い正した。

「ウゥーン、頼むからティセラ、もう少し大人になってくれぇぇっ。生きておられたらの話に決まっているではないか。トホホ・・・・」

国王は頭を抱えてテーブルに伏せってしまう。しかし、彼の嘆いた言葉にさえ、ティセラは感情を揺さぶられてしまったようだ。

「まぁひどい! わたくしとの結婚を望まれました時、ティセラは今のままが一番だ。無理して大人になる必要はない。陛下さまはそうおっしゃったではありませんか! ウウウッ―――」

感受性が強いティセラは、ぽろぽろと涙を流して国王の言葉にかわいくも必死に抗議する。

「あ、あーヨシヨシ、私が悪かったな。さぁ、もう泣かないでおくれ」

グズるティセラを優しい声でなだめながらもゴージャンヌ八世は、ティセラが久しぶりに自分のことを『陛下さま』と呼んだことで、ティセラと出会った頃の懐かしい記憶が、胸の中に思い起こされてしまうのだった・・・・。

 

 

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《注意》

この物語はすべてフィクションであり、登場する如何なる人物、団体、国家、人種、地名及び地域等、すべてが架空のものです。また、男性にとって有利とも受け取れる女性の心情に関する心理描写、及び身体機能の記述は、すべてが事実と異なる誤ったものです。

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