美少女プリンセス強制妊娠計画(密室調教合宿の儀) 岳瀬浩司 著 第一章 美しき惑星 「ロイータ」
豊かな自然と澄んだ空気に包まれた広大な大地に、清らかな鐘の音がどこからともなく響き渡っている。
ここは地球にも似た自然豊かな美しい星。そこに暮らす人々は自らの住むこの星の名を惑星『ロイータ(=芽生え栄える星)』と呼ぶ。
大きさは地球のほぼ3分の1ではあったが、資源豊かな海も存在し、地表の半分を占める大きな陸地には、約600万人もの人々が繁栄を極めていた。
高度な文明が栄える現在のロイータは、都市と農村、そして自然が見事に調和した素晴らしい惑星である。とは言え、そんな民衆が平和に暮らす美しいこの惑星も、古代の歴史をひも解けば、そこには数百もの国々が大陸に覇を競い合う、血と涙に彩られた残酷で暗い過去が存在していた。しかし、現在この星の人々の暮らしを見渡す限り、そんな凄惨な歴史など微塵も感じさせてはいない。それはすなわち、遥か以前にこの星が一つの国家に統合されたことを意味するものなのだ。
実はすでに今から250年以上も前から、この星に住む人々は『ロイータ王国』と呼ばれる『ジェイバッハ王家』の統治の下で、平和と繁栄の日々を送っていた。
ロイータ王国も昔は、大陸の東端にある弱小国家に過ぎなかった。今では想像もつかないことだが、隣国からの攻撃を受けて度々滅亡の危機に瀕したものだ。それが今やロイータの大地に、唯一無二の王国を築き上げているのである。
名君たちが名を連ねるジェイバッハ王家歴代の国王の中でも、現国王である『ジェイバッハ=ゴージャンヌ八世』は、名君の中の名君として広く国民たちの信頼と尊敬を集めていた。それは人柄によるところも決して小さくはないが、やはり彼の治世を語る上でも、強い政治手腕で国政改革を断行した功績によることを評価する方が正当であろう。何と言っても彼は、特権階級であった貴族たちから不逮捕特権を剥奪し、国民生活への不当介入を制限したばかりか、恩給下賜制度を廃止して国民の税負坦の軽減に努めたのである。その他にも、住民自治制度を導入して地方の自治権を住民に委譲したことや、高福祉政策を推進したことなど、国民の暮らしの向上に大きく貢献したのである。代々に渡って名君による善政が行われてきたロイータ王国であったが、ここまで思い切った決断を下した国王は、彼をおいて他には見当たるまい。
国王に即位してからすでに三十有余年が経ち、今年ちょうど五十歳を迎えた彼は、国を混乱させることなく後進に道を譲るべく、自らの治世が抱えた問題の処理に余念がない。
今や全ての国民から敬愛され、絶大な信頼を得ているジェイバッハ王家の地位は、誰から見ても揺るぎないものに思える。しかし同時に、古くからの特権階級であった貴族たちの中には、貴族制度の廃止を断行され、多くの特権を奪われたことを根に持ち、現国王の失脚を望む者たちも少なくないのも事実なのである。
その日のロイータ王宮は、いつもの静けさの中にも重々しい空気が張り詰めていた。
玉座に座る国王ゴージャンヌ八世の目の前には、多くの少女たちが謁見を果たすために広間に集められている。皆、13〜17歳くらいで、色白の可愛らしい美少女たちばかりである。しかし、およそロイータ国中から選りすぐって集められたかのような美しくも可憐な少女たちを目の前にしているにも関わらず、何故か国王の顔は険しかった。
「国王陛下、ここに集めました7名が、例の誘拐犯の新たな被害者です」
国王親衛隊長ケッベルが国王に進言すると同時に、少女たちは皆不器用に膝を折った。
「よいよい皆の者、楽な姿勢のままで過ごすがよい」
国王は目を細めながら痛々しい面持ちで、少女たちの身体を気遣う配慮を見せる。
国王の言葉に少女たちは、不自由そうにゆっくりと身体を起こして、やや身を反らした状態のままに立ち尽くている。そのぎこちない動きや姿勢は、明らかに少女たちがお腹を庇う為に生じているものだ。
何とここに集められた七人の少女たちのほとんどが、下腹部をポッテリと膨らましているのである。つまりは妊娠しているのだ。中にはすでに乳飲み子を抱えている少女もいる。
「国王陛下、彼女たちも犯人逮捕に協力する為に、すべての出来事を話してくれました。犯人は今までにも増してその変態的行為をエスカレートさせている模様です。それは後日お知らせ致します」
ケッベルの漠然とした報告は、明らかに被害に遭った少女たちを目の前にしては決して具体的内容を告げられぬ、余りも痛ましい凌辱的行為を押し包む言葉なのだ。ゴージャンヌ八世もそれを痛いほど理解している。
「そうか・・・・。本当に哀いそうに‥‥。だが心配するな。必ずや犯人を捕まえて見せるぞ。それに、もしも育てられぬのであれば、そなたたちの産んだ赤子は、すべて国で面倒を見ようではないか」
国王の慈悲深い言葉を聞いて、多くの少女たちが涙を流している。皆が望まぬ妊娠を強いられ、失意のままに暮らしてきたであろうことは誰の目にも明らかであった。
少女たちの身に起こった不幸―――それはまさしく生き地獄としか言い様のない悲劇であったのだ。
―――事件は今から3年前に端を発する。
治安が行き届いていたはずのロイータ王国で、およそ成人に及ばぬ少女たちが、街や村から忽然と姿を消す誘拐事件が、国土のあちこちで頻繁に発生し始めたのだ。しかも行方不明になる少女たちは、決まって街や村で一番と思われるような可憐な美少女であり、年齢も12歳から17歳までと、ある決まった共通点が存在したのである。
すぐに治安警察隊と国民たちによる、大がかりな捜索活動が展開されたのだが、結局それも実を結ばず、少女たちの行方は一行に解き明かされることがなかった。
ところが不思議なことに拐われた少女たちは、決まって半年後には無事に両親の待つ家に戻ってき始めたのだ。いや、とても「無事に」などとは言い難い。なぜなら帰ってきた時、その少女たちは必ず、誰とも判らぬ犯人の子を、その幼い胎内に身籠ってしまっていたからである。
―――結婚前の若い女性の肉体を、しかもまだ成人にも満たぬ少女の可憐な身体を、散々弄んだ挙句に妊娠させて親元に送り返す―――
それは長年に渡って築き上げてきたロイータ国民の尊ぶべき倫理道徳観念を根底から覆し、あまつさえ踏みにじる如き許されざる悪行であった。
国王は直ちに専従の捜査局を組織し、犯人の逮捕と再発の防止に努めた。しかし、犯人はそれを嘲笑うかのように、その後も多くの美少女を誘拐し続けて、無理やり妊娠させては親元に送り返すという悪行を繰り返したのである。
勿論、犯人の手掛かりを得る為に、犯人に妊娠させられて解放された少女たちの事情聴取も繰り返し行われた。
少女たちは最初、余りにショッキングな出来事だったようで、誘拐されて何をされたのかを全く話そうとしなかったが、若い女性の聞き取り調査員たちによって、時間をかけて説得するうちに、猟奇的とも言えるような驚くべき内容を少しずつ口にし始めたのである。
それはまだ完全に発育しきっていない少女の肉体が受けるには、余りにも過酷な仕打ちとしか言い様がなかった‥‥。聞き取り調査に携わった若い女性たちが、思わず顔を蒼ざめさせ、軽い失神状態に陥ってしまった程だ。犯人は複数であり、少女たちの蒼い肢体を貪る為に誘拐したばかりでなく、まるで人体実験の生贄の如く彼女たちの肉体に宿る「女」としての生理を改造しまくったのである。
この驚くべき陰惨な内容を知らされたゴージャンヌ八世は、烈火の如く憤りを顕わにした。が、国王の激昂にも無理はない。彼にもちょうど同じ年頃のひとり娘がいたのである。
“もしも万一、自分の娘がそんな屈辱的な辱めを受けたなら・・・・”
―――彼はそう考えると年頃の娘を持つ一人の父親として、胸が切り裂かれるような身悶えする想いに襲われたのだ。彼は直ちに専従捜査員を3倍に増員し、これ以上の被害者を出さないために一層の警戒体制を指示したのであった。
〜そんな厳しい警戒体制を敷いて2年が過ぎようとしている今日、その甲斐も空しく、また新たな犠牲者たちが国王の前に助けを求めてやってきたのである。
「陛下、今回も多くの者がこのまま親元で過ごして出産することを嫌がっています。是非とも慈悲深い御配慮を!」
「うむ、好きな保養施設を選んで、そこで心安らかに過ごすがよい」
「ははっ、彼女たちに代わって厚く御礼を申し上げます」
ケッベルの言葉と同時に、彼の背後に控えていた少女たちも皆、深々と国王におじぎをした。
変質的な婦女暴行魔の子を無理やり妊娠させられたとはいえ、ここロイータ王国では「堕胎」は決して許されない。彼女たちはその未成熟な肉体で、相手が誰であったのかも判らぬままに、自分からは決して望まぬ出産を余儀なくされるのである。
ほとんどの少女たちが親元での出産を拒む。日増しに大きく膨らんでゆく自分の下腹部を、周囲の視線に晒すことが耐えられないのだ。未婚のままに妊娠してしまったことの不徳さに自らを責め、自殺に及ぶ少女たちも少なくない。そんな被害者の少女たちの為に、国王は各地にある貴族専用の保養施設を、次々と少女たちの救済センターとして解放していったのである。被害者の増加に従って、今や12カ所ある保養施設のすべてが、被害に遭った少女たちの救済センターになってしまっているのが現状だ。そして出産を終えた後も、そのまま救済センターに留まる少女たちがほとんどである。たとえ産んだ子供を国が引き取ってくれて親元に戻ったとしても、少女たちにはもはや結婚相手がいないからなのだ。ここロイータ王国の長年に渡って築き上げてきた民たちの倫理道徳が、結婚前に処女を失うことを決して認めてはいない為なのである。もはや彼女たちは誘拐された時点で、余りに若くしてその人生を台無しにされたと言っても過言ではないだろう。
「フゥゥーッ・・・・」
少女たちが謁見の間から退出すると、国王は大きな溜め息を吐いた。そして今も側に控えているケッベルを鋭く睨みつけるや、思い余って玉座から立ち上がった。
「ケッベル! そなたには失望させられっぱなしだぞ! これだけの資料が揃っていて、何故犯人の見当さえ定まらぬのだ!」
国王の厳しい叱責が、国王親衛隊長であり国家警察局長と専従捜査局長を兼務しているケッベルに情け容赦なく飛んだ。
「ははっ、誠にもって恐縮致しております。・・・・されど陛下、これ以上ない程のあらゆる方面からの捜査活動は、陛下も充分に御承知のはず・・・・」
「ええいっ、弁解は無用じゃ! おぬしの貴族たちに対する捜査の甘さは、すでにわしの耳にも届いておるわ! 犯人たちが宇宙艇(スターシップ)を使っていることは、火を見るよりも明らかではないか! それなら犯人捜査は、まず貴族たちの行動から調べるべきであろう。判っておるなら早々に捜査して参れっ!」
「はっ、ははーっ!」
ケッベルは逃げるように謁見の間から飛び出していった。ここは国王の怒りが治まるまで、謁見を控えた方が無難だと考えたのだろう。勿論のことケッベルが指揮する専従捜査局は、兼ねてから貴族に疑いの目を向けて様々な捜査を展開していた。貴族たちの所有する宇宙艇の運行記録の裏付け調査や、貴族たちのDNA鑑定も実施して、少女たちが産んだ子供と一致していないかも既に調査済みのことだったのだ。
「フウッ・・・・、この事件が解決せぬうちは、とても引退など出来ぬ・・・・」
側に控えている従者たちにボヤくように、ゴージャンヌ八世はボソッとそう呟いた。
(・・・・そう言えば、今日は朝からサラの姿を見かけておらぬが・・・・)
ふと国王の顔に険しさが浮かぶ。いまだ正体すらつかめぬ美少女連続誘拐犯の暗躍と、その被害にあったばかりの少女たちの痛ましい姿を間近に見ただけに、彼はいつにもまして一人娘のサラのことが心配でたまらない。
「これ、誰か直ちにサラを呼んで参れ」
国王の言葉を受けて一人の従者が立ち上がり、そそくさと国王一家が暮らす居城の方角へと向かっていった。
警護の厳しい王宮に於て、誘拐事件が発生するなど想像するのも困難なことではある。しかし、一連の被害者である少女たちの痛ましい姿を見てきたゴージャンヌ八世にとって、同じ年頃であるひとり娘のサラがどうしても重なってしまい、彼は絶えずあらぬ心配に心を揺さぶられ続けていたのである。
(カラーン、カーン、カラーン―――)
ひとり娘の安否を心配するそんな彼の耳に、どこからか正午を告げる鐘の音が響いてきた。
(そうじゃ、今日は家族で昼食を取ることにしよう)
そう考えた彼は玉座から立ち上がると、従者に娘を呼ばせておきながら、居城の方へと立ち去ってしまったのであった・・・・。
晴れ渡った青空の下、自然豊かなロイータの大地に正午を告げる鐘の音が鳴り響いている。
陽は高く昇り、そこかしこに点在する街々は人々の活気に満ちあふれ、街々の周囲に目を遣れば、そこには豊かな田園風景が広がり、農民たちの額に汗して働く姿も見える。
そんな光景だけを見て取れば、今、世間を騒がせている美少女連続誘拐事件の暗い影はどこにも見あたらない。実にのどかな風景である。
街々の建造物や畑仕事に手作業で従事している人々の姿を見ると、およそロイータはお世辞にも近代国家とは呼べぬ趣きがある。しかし、遥か上空からロイータの大地を見下ろせば、都市の計画的立地や環状道路の存在など、高度な文明が備わっていることは明らかだ。
まるでそれを証明するかのように、今、雲の合間をぬって大きな宇宙船が姿を現した。
その宇宙船はゆっくりと空中を移動し、ある一つの街の上空で静かにホバリングを開始した。するとその宇宙船の底部から一筋の光線が地上に向けて放たれ、その光の中を多くの人々が地上に降下していく・・・・。続いて物資が格納されているコンテナらしき箱が、次々と地上に降下していくのも見える。
その間にも上空からは様々な形をした小型の宇宙船が、次々に街々に飛来しては飛び立っていく―――。
ここロイータ王国では、スターシップを使った移動や輸送が、今や主流になっているようである。しかし、それほどまでの高度文明を保持しているにも関わらず、ロイータの国土はまるで酪農国家の赴きを感じさせる程、実に森林や田園が多いのだ。
そんな緑の多いロイータの風景の中で、一際人々の注目の集まる広大な森があった。
ちょうど国土の真ん中に位置するその広大な森の中央に、白く輝く立派な城が見える。それこそがまさに、ロイータ王国の現国王ジェイバッハ=ゴージャンヌ八世とその家族が暮らしている『ロイータ王宮』なのだ。
まるで中世の城を感じさせるこの白亜の建造物は、全てが石で造られた威厳の高い重厚な造りである。すでに築後200年が経過しているにも関わらず、少しの古めかしさも感じさせない美しさを漂わせている。そしてそんな立派な王宮を取り囲むように、森のあちこちには赤レンガの建造物が建ち並んでいる。それはロイータ王国を代表する医療機関や大学、美術館、図書館などであった。
実はこの森は古くから『王家の森』と呼ばれ、王家と王族に連なる特権階級の貴族しか立ち入ることは許されなかった。しかし今では時代にそぐわない専制君主を嫌ったゴージャンヌ八世のはからいにより、森の中にある大部分の施設が国民共有の財産として公開されている。つまり現在は王宮とその一部の森林以外は人々の出入りが自由となっているのである。今やロイータ王国に存在している数多くの森の中で、この森が最も人々の集う場所となっているのだ。
そんな「王家の森」にも、正午を告げる鐘の音が響いていた―――。
王宮の裏手に位置する広大な庭園には、咲き乱れる花々や飛び回る蝶の姿を見ることができ、実にのどかな光景である。ここは今も王家の所有庭園として、人々の喧噪から隔離された場所となっている。
「ハイヤーッ―――!」
(パカッ、パカッ、パカッ―――)
遠くに土を踏む蹄鉄の音が聞こえ、かわいい掛け声が上がる―――。
野原を元気よく一頭の白馬が疾走している。白馬を巧みに操るのは、小柄な少年らしき人影である。赤いブレザーに黒いパンツをまとった乗馬スタイルが、流麗な白馬の輝くような白さの中にも一際目立って映る。
乗馬の腕前といい、身にまとう衣服といい、見る者すべてに凛々しさを感じさせる少年ではあったが、小さな顔に不釣り合いな黒い大きめの目差し帽が、遠くから見ても何となく滑稽であった。
「ハイーッ!」
目の前に現れる木々の茂みを、人馬一体となった見事な呼吸で難無く跳び越えていく―――と、余りに高く跳び過ぎたのであろうか、すぐ目の前にどっしりと根を張る大木を躱そうとした時、大きく横に延びた木の枝に、深くかぶっていた黒い目差し帽をすくい取られてしまった。
「キャッ―――!」
途端に少年の口から黄色い声がこぼれ、まるで飛ばされた帽子を追いかけるように、金色に輝く美しく長い髪が風になびいた―――。
その姿に思わず目を見張ってしまう。少年に見間違うなどとはとんでもない。それは美しい少女だったのだ。
―――透き通るような白い肌に流れるように長いブロンドの髪。瞳はパチリと大きく、切れ長の睫毛がキリリとした精悍さを感じさせる。小柄ながらもスタイルの良さも抜群である。
乗馬スタイルのぴっちりしたズボン姿が、身体のラインをはっきりと浮き立たせており、少女の肢体の素晴らしさを、より一層強調させている。胸の膨らみやお尻の丸みなど、まだ若干蒼い幼さが秘められてはいるものの、充分に女性の艶やかさを仄めかしていた。まだ年齢は十四歳くらいであろうか。そんな華奢な骨格に見て取れる。
少女は気まずそうにちょっぴり舌を出すと、白馬から降り立ち、帽子を拾おうとする。と、その時、遠くから少女に向かって女性の声が掛かった。
「サラ姫様ーっ、大丈夫ですかーっ!」
そうである。少女の名前は「サラ」。ジェイバッハ王家のプリンセスだったのだ。国王である父ゴージャンヌ八世と、聡明で美しい王妃ティセラとの間に生まれた、たった一人の愛娘だったのである。
サラ姫はこのロイータ王国の国王と王妃である両親の愛情を一身に受けて何不自由なく育てられ、素直でかつ聡明な、まさに類稀な美しい少女へと成長していた。一度として民衆の前に披露されることなく、王宮の中で大切に育てられていた彼女であったが、その比類なき美しさや清楚さは、ロイータで一番と民衆の間にも広く噂されている程であったのだ。
「サラ姫様ーっ!」
声を掛けながらその女性は小走りにサラの元に駆け寄っていく。黒いワンピースに白いエプロン姿の、三十代前半の美しい女性である。彼女はようやくサラの元にたどり着くと、息も切れ切れの様子で少女に注意を与え始める。
「サラ姫様っ、そんなに御無理をなされたら大ケガをなさいます。もうおやめ下さい!」
「大丈夫よエレザ。そんなに大袈裟にしないで。・・・・恥ずかしいわ」
エレザと呼ばれるこの女性の過保護ぶりが嫌いなのか、サラは顔をプイと横に背けた。
「本当にサラ姫様ったら。あれほど陛下様から、決して一人では外にお出にならぬようにと注意されておいでだったのに・・・・。それに乗馬はもうなさらない約束でしたでしょう」
呆れ顔のエレザがそう言うと、サラ姫は思わずそれに反発するように口を開いた。
「私、本当に男に生まれたらよかったと思うわ。女なんてつまんない!」
エレザは少女に対してやれやれといった表情を見せる。実はエレザはサラ姫が生まれた時から、従者として彼女の世話係をしてきたのだ。サラ姫のこの口癖を今まで何百回、いや何千回と聞いたことであろうか。しかし、年頃になった今でも、いや年頃なればこそ、少女のいつもの訴えには真剣さが込められていることに、彼女も気付いていないわけではなかった。
―――確かにサラ姫の言うとおり、ロイータ王国の女性には何かと制約が多いのが事実である。ロイータに暮らす女性たちは年頃になると、外出を戒められるだけでなく、素顔を異性に晒すことさえ戒められている。十六歳で成人とされ、必ず結婚しなければならないし、結婚後は結婚後で夫以外の男性に素顔を見られるのを恥として、家の中にじっとしていなければならないのだ。
そんな子供っぽいサラ姫のいつもの口癖に、優しいエレザはいつも付き合ってやる。ただ黙って少女の言い分を聞いてやるのだ。そうしてやるといつものお約束のように、無邪気で勝手気ままな少女の空想が今日も始まる―――。
「私が男の子だったら、この国で一番奇麗なお姫様をお后に貰って、元気な王子を産んでもらうわ。そしてその王子にお父さまの跡を継いでもらうの」
優しくサラの言い分にうなずきながらも、エレザはそんな彼女の言葉を心の中ではあっさりと否定していた。
(いいえサラ姫様。どこをどう探しても、あなた以上に可愛くて美しいお姫様はいらっしゃいませんわ。もしもそのお姿のままに男の子にお生まれになっていたなら、どんなに美しい姫様であろうとも、あなたの美しさの前に見劣りしてしまいますのに・・・・)
しかしエレザがそんな言葉を告げたところで、自分の美しさに自覚を持たないサラ姫にとっては、何の解決にも至らないのである。自分の意見を否定されたと感じて、かえって機嫌を悪くするだけだ。そこでエレザはいつも通りの締めくくりに、サラ姫にとって唯一の泣き所であった「ミッシェル」のことをさりげなく口にする―――。
「‥‥でも、サラ姫様が男にお生まれあそばしていたなら、許婚であるミッシェル様はどなたと結婚なされるのでしょう・・・・? 勿論、男にお生まれになったサラ姫様がミッシェル様の妻となることは出来ませんし・・・・」
ミッシェルの名前を口に出された途端、サラ姫はたちまち顔を紅く染めて黙ったまま俯いてしまった。どうやら少女は今日もエレザに泣き所を突かれてしまったようだ。
『ミッシェル』とは名門貴族ビシュタルク家の長男、ビシュタルク=ハイデン=ミッシェルのことである。ミッシェルはサラ姫の幼馴染みでもあり、古くからの許婚でもあったのだ。
生まれて此の方、王宮から一歩も外へ出たことのないサラ姫は、学校にすら行ったことがない。友達と言えば、幼い頃によく遊んだ、王宮に出入りする貴族の男の子たちだけだったのだ。
ロイータの貴族というのは、すべて王家の血縁である。つまりサラ姫にとってその男の子たちは従兄弟にあたる。しかし、王宮に遊びに来るのは、決まっていつも男の子たちばかりである。民たちの暮らしとは異なり、貴族の家に生まれた女の子たちは、生まれた時より屋敷から一歩も外へ出ずに暮らしていたからだ。
小さい頃のサラ姫は、この従兄弟たちと遊ぶのが大好きであった。自然と遊びも男の子のものを好むようになり、彼らと一緒になって野原を奔放に走り回り、泥んこ遊びに興じるなど、母である王妃ティセラの頭を大いに悩ませたものだ。
そんな従兄弟の男の子たちの中で一際活発でサラ姫の目を引いたのが、サラよりも2つ年上のミッシェルだったのである。
幼い頃よりすでに将来の美貌を想像させるまでに愛らしかったサラ姫に、従兄弟たちも緊張してものおじしてしまい、上手に接することができなかったのであるが、ミッシェルに限ってはいつも優しく、まるで自分の妹のように遊び相手をしてくれたのであった。そんなまるで実の兄のようなすがすがしい少年の登場に、たちまち一人っ子のサラ姫は淡い恋心を抱くようになっていったのである。
折しもその当時、サラ姫の父親であるゴージャンヌ八世は、多くの貴族たちの反対を押し切って民主化政策を推し進めようとしていた。これに賛同して並みならぬ尽力に努めたのが、ミッシェルの父親であるビシュタルク侯爵だったのだ。
果たしてサラ姫の願いが天に通じたのか、やがて両家の同意の元にサラ姫とミッシェルの婚約が成立する。サラ姫が9歳の時であった。
それからというものサラ姫は、王宮に遊びにくる従兄弟たちとは余り遊ばなくなった。王家の娘として、他の男の子たちに顔を見られるのを嫌ったせいもあるが、白い肌が日焼けしてしまったり、身体に跡が残るような傷が付くのを恐れたためだ。すべては大好きなミッシェルの為であり、かすり傷一つの跡も付いていない清らかな自分のままで彼に身も心もすべてを委ねたいという、いじらしい乙女心の現れだったのである。
たとえば彼女が大好きな乗馬を楽しむ時、たとえ今日のような汗ばむ陽気の日であっても、決して長袖のブレザーと皮のパンツの着用は怠らない。ケガや日焼けに対する処置とて充分なのだ。そんな自分の身体に対するいじらしい心遣いは、少女の日常生活のあちこちに顔を覗かせている。例えば入浴は毎日朝夕の二度行い、少しでも汗をかけばすぐにシャワーを浴びて素肌を清潔に保つ習慣が、既に七年近くも休みなく続いている。そして甘いものには目がなかった彼女が、太ることを気にして全くお菓子を口にしなくなってもう五年も経つ。そうやってサラ姫は、ミッシェルの妻となる日のことを夢見て、日々成長を続けてきたのである。
果たしてそんな少女の乙女心に応えたからなのであろうか。今やミッシェルは、ここロイータで成人と認められる十八歳を迎え、凛々しい若者に成長していると貴族の間でも評判が高い。そしてサラ姫もあとひと月足らずで、晴れて女性が成人と見なされる十六歳を迎え、ミッシェルと七年ぶりの再会を果たすどころか、遂には愛しいミッシェルの妻となれる日がやってくるのだ。
「そうね‥‥、女の子に生まれていないと、ミッシェル様とは結婚出来ないものね・・・・」
少女は神妙になってポツリとそう呟く。ミッシェルの事を考えているのであろう、潤んだ瞳がキラキラと輝いている。まさに恋する乙女の表情である。
いじらしい乙女心を垣間見せるサラ姫を見つめながら、エレザはいつもの如くホッと胸を撫でおろした。子供のような無邪気さと少年のような活発さを備えたサラ姫も、どうやらその心は徐々に「女」として成長しつつあるようだ。サラ姫が赤ん坊だった頃からサラ姫専属の従者と教育係を務めていたエレザにとっては、彼女の精神的な成長は喜ばしい限りである。あとひと月もすればサラ姫も十六歳の誕生日を迎え、ロイータ王家の風習に則って許婚であるミッシェルとの初夜に望む。肉体的な成長こそはまずまず果たしてはいるものの、精神的に幼いサラ姫を見るにつけ、エレザは心細さを覚えたものであったが、少女がミッシェルの事を想う時に見せる表情だけは、慎ましやかな淑女(レディ)のものであった。
(―――ミッシェルと肉体的にも結ばれて、一人前の「女」になった時、サラ姫のこの少年のような快活さは影を潜め、きっと眩しいほどに美しく慎ましい王女に変貌を遂げるに違いあるまい・・・・)
そんな期待まじりの確信が、エレザの胸中に込み上げてくる。
「さぁサラ姫様、陛下が御一緒に昼食をお召し上がりになるのをお望みです。すぐにお戻り下さいませ」
「わかったわ。それじゃあシャワーを浴びて着替えてくるわ」
エレザの勧めに応じると、サラ姫は白馬の手綱を引いて、厩舎のある方向へと足を進めていった。そんな彼女の後姿を、エレザはその場にたたずんだまま、じっと見つめている。
「まぁ・・・・、もうすっかり一人前におなりだわ。月日が経つのは、本当に早いこと・・・・」
サラ姫の丸く突き出たお尻をしみじみと見つめながら、エレザは感慨深くポツリとそう呟いた。
白馬を引き連れて厩舎へと遠ざかっていくサラ姫の、最近特に女らしさを帯び始めた後ろ姿を、エレザは飽きることなくいつまでも見守っている‥‥。
しかし、その時―――
(カサッ―――!)
何やら絹擦れの音が、そんなエレザの背後で響いた。しかし彼女には聞こえなかったようだ。後ろを振り返ることもなく、静かにサラ姫の後ろ姿を見続けている。
感慨にふけっているエレザは、すぐ背後に控える木々の茂みの中から、自分とは異なるもう一つの視線が、サラ姫の後ろ姿に熱く注がれていることに、まったく気付くことが出来なかったのである‥‥。
《注意》
この物語はすべてフィクションであり、登場する如何なる人物、団体、国家、人種、地名及び地域等、すべてが架空のものです。また、男性にとって有利とも受け取れる女性の心情に関する心理描写、及び身体機能の記述は、すべてが事実と異なる誤ったものです。
<ジュピターインターノベルズ>
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