欲望の店 「カオスカナル」

 

栗本アキラ 著 

 

 

 

 男でも女でも、老若問わずその望みを叶えてくれる場所があった。

知らず知らず、その扉を開いていく者たち。その欲望のおもむくままに。

しかし、それは悪魔の囁きとも言えたのだった。人の欲望が完全に満たされることなど、ありはしないのだから・・・・。

 


 

第2話   「由香と春美」

 

Vol.1  由香 <1> 

 

 

 始業前の朝のひと時。

校舎内は生徒達の活気で満ち溢れていた。校庭では女子たちがソフトボールに汗を流している。朝練と称した体育の授業の一環。クラスごとに隔週で回ってくるこれは、今ではこの学校の恒例行事にもなっていたようだ。

今時は珍しくなった白い体育着に紺色のブルマ姿の女子が校庭を駆け跳ねている。その中に由香(ゆか)と春美(はるみ)の姿もあった。

由香はピッチャーをしていた。明るく快活で運動神経もよく、ショートヘアがよく似合う美少女はクラスの中でも目立っている存在だ。なにより他の女子に比べ『身体つきの良さ』が際立っていた。体育着を着ているときなどは、特に男子達の視線を集めていたのだが、当の由香はあまり意識していないようだった。

由香がボールを投げる。それと同時に胸の膨らみが小気味よく揺れているのが分るのだ。これは由香も少々無頓着だったと言えるが、体育の時は動きやすくするためブラを外していたのが原因だ。これが思春期の男子生徒を惹きつけないはずはなかった。

 

カキーン!

 

当たり損ねのボールが宙に飛んだ。

「あーー! またボールが入っちゃったよー」

ファールボールが塀に面している隣家の庭に入ってしまったようだ。それを見て一斉に暗い顔になる女子たち。

それもそのはずである。よりによって有名な説教オヤジの家に入ってしまったのだ。とにかく恐いことで知られていたので、なるべくなら近付きたくない場所である。

「由香ぁ〜〜。どうしよう〜〜〜」

ファールを打った女子が泣きそうな顔をして由香を見る。

「いいわ。わたしが取ってきてあげるから」

「平気? いっしょに行こうか?」

友人の一人が心配そうに近寄ってくる。

「大丈夫、大丈夫。みんなは続けていて」

にっこり笑って由香が答える。この、物怖じしない勝気な性格のおかげで、女子達の人気も高く、いろいろと頼られているようだった。

校庭を一人出て行く由香。そんな由香を憎々しげに見つめる目があった。春美である。

(また、一人でいいかっこして・・・・)

由香と春美の家は隣同士だった。そのため、何かにつけて由香と比較されて育ってきた春美は、ある種の劣等感を由香に抱いていた。容姿は由香に負けないくらい可愛いのだが、その劣等感が春美を暗い性格にしてしまっていた。

しかし由香は、自分を見つめるそんな冷たい視線に気付くことはなかった。

校庭を出て、例の家の前にたたずむ由香。さすがの由香も少しは緊張しているようだ。みんなには平気な顔をして見せたが、ここのオヤジの評判は由香もよく耳にしていた。

この間など、断りもなくボールを取ろうとした男子生徒が、こっ酷く怒鳴られたと聞いている。時には叩かれることもあるそうだ。それゆえ女子でここに入ろうとする生徒などは今までいなかった。

(ま・・まあ、いくらなんでも女の子に暴力振るったりはしないでしょ・・・・)

そう楽観的な考えを抱きながら、ゆっくりと庭に面した裏口を開ける由香。

「あのー。すいませーん・・・・。ボール取らせてくださーい・・・・」

中に入ると広い庭があった。よく手入れされた木々や盆栽などが置かれている。

しかし、由香がいくら声をかけても返事がない。しかたがないので、ボールを捜すことにした。このまま家主が出てこなければラッキーである。

庭の中をあちこち探し回る由香。しかし、ボールはいっこうに見つからない。そして、盆栽の下に転がっていないかと鉢植えに手をかけた時だ。

「こらっ!! そこで何をしておるかっ!!」

突然、野太い声が響き由香の身体がすくみ上がる。振り向くと竹刀を持った厳ついオヤジがこちらを睨んでいたのだった。

最悪であった。無断で入ったと思われた由香はオヤジの説教攻撃を受けることになった。弁解しても聞く耳持たないといった感じで、由香の前をいったりきたりしながら、やれ躾がなってないとか、礼儀知らずだとかネチネチと言葉で責め立てるのだ。

(あーあ。もう、かんべんしてよー)

由香は、もう何を言っても無駄だと思った。そうしてオヤジに何を言われても、はいはいと軽く受け流していた。とりあえず適当に相槌を打って反省している素振りを見せればいいだろうと考えたのだ。

由香を立たせたまま、時折竹刀の先で頭や足を軽くペンペンと叩くオヤジだったが、なにも反論しなくなってきた由香に、そろそろ浴びせる罵声のネタも尽きてきたころだ。

「ふん・・・・」

オヤジは今度は黙って少女の周りを歩きながら、ジロジロと由香のことを見回しているようだった。小言のネタでも探しているのだろうか。

しかしこのオヤジ。改めて由香の身体を見ると、やはり目に付くのが白い体育着を盛上げる2つの隆起の部分だったようだ。普段そこらで見かける女生徒と同じくらいの背格好のくせに、明らかに胸の膨らみが際立っているのだ。

「まったく、身体ばっかり大きくなりおって」

「え? わたし、クラスでは低いほうだよ」

背丈のことを少々気にしていた由香は、つい馬鹿なことを言ってしまったと思った。少しでも口答えすると、3倍ぐらい説教が返ってきていたのだ。だが、由香の危惧とは裏腹に、オヤジは黙って見つめているだけだった。無論視線の先は由香の胸である。

「ふふん、そうか。栄養が全部こっちに回ったんじゃないのか?」

「は?」

わけが分らないといった顔をしている由香に、オヤジはニヤリと笑うと、ゆっくり竹刀の先を由香の身体に向けた。

「ほれ。ここだよ」

そうして由香の胸の膨らみを、竹刀の先でクイッと突っつくオヤジ。

「あ!」

いきなり胸に竹刀の先を当てられ戸惑う由香。しかし、オヤジは構わず由香の胸を突付きまわす。

「なっ・・・・なにを!!」

「本当にこれ、お前のオッパイか? どうせ中に何か入れておるんじゃろう?」

竹刀の先を使って、由香の胸を起用に持ち上げたり揺らしたりして弄ぶオヤジ。にやにやとイヤらしい笑いを見せるその顔は、由香の目には最早ただのスケベオヤジにしか映らなかった。

「やっ、やめてよっ!!」

「ぐわっ!?」

とうとう我慢の限界に達した由香は、オヤジを思いっきり突き飛ばしてしまう。無様に尻餅をつくオヤジ。その前で真っ赤な顔をした由香が仁王立ちになる。

「こっ、この、変態!!!」

「な!? なにおぅ!! こいつっ!! うっ・・・・いてて・・・・」

どうやら、腰をしこたま強く打ってしまったらしい。オヤジは直ぐには立てないようだ。

「最低ーーっ!! 信じらんない!! ちょっとボール拾いに来ただけなのに・・・・!」

「なに? そうか、胸にゴムボールを仕込んでおるんじゃな。やっぱり偽物のオッパイじゃったか。思ったとおりだわい。まったく小娘のくせに色気づきおって・・・・」

バキィッ!!

「ぶわっ!?」

由香のキックがオヤジの顔面に炸裂した。ちょうどその時、オヤジの倒れた傍らに例のソフトボールが転がっているのが見えた。由香は黙ってボールを拾うと、すたすたとこの家を後にするのだった。背後から聞こえてくるオヤジの遠吠えを聞き流しながら・・・・。

こうして、無事(?)ボールを取り戻した由香が校庭に戻ったとき、ソフトボールの時間はちょうど終わるところだった。

「由香ぁー。大丈夫だった?」

「う、うん。全然平気だったよ」

駆け寄る友人達に、平静を保ちながら笑う由香。内心は未だに怒りが治まっていなかったのだが、そんな素振りはかけらも見せなかった。こうしてまた友人達の羨望のまなざしをうける由香だったが、一人だけ冷ややかに見つめる目のあることには気付かないでいたのだった。

そう。春美である。しかも、いつもとは違う妖しげな笑みまでも、その唇に含まれていたのである。その意味するところを由香はまだ知らない・・・・。

 

 

 * 

 

 

 放課後。

学校からの帰り道のことだ。近くの公園の中を由香はぶつぶつ言いながら歩いていた。

まだ今朝の事が頭から離れていないようだ。まったく、最低の1日になってしまったと不機嫌この上ないといった感じである。

「あの、スケベっ!!!」

ミニスカートを翻しながら、小石を蹴り上げる由香。そしてちょうど側にあったベンチにどっかと腰を下ろすと、夕焼け空を見ながら軽く伸びをする。こうしていると落ち着くのだ。涼しい風が頬を撫でていくのを感じながら、はぁーっと溜め息を漏らす由香。

目を閉じて、しばらくそのままでいた。しかし、由香にとっての最悪の一日はまだ終わっていなかったようである。

「ん?」

不意に、人の気配を感じた。見ると前の方に汚らしい男が座っているではないか。それも何やらニタニタしながら由香の方をじっと見つめている。

「え・・・・? あっ!!」

由香は、バッと姿勢を正した。少々無防備な格好でベンチに座っていたのだ。男の位置からだとスカートの中が見えていたのは明白だった。

ぎゅっとスカートの裾を押さえながら、男の方を睨みつける由香。どっかにいっちゃえと言った感じを露に見せる由香だったが、男は立ち去るどころか彼女の方へと近寄って来たのだった。

「な・・・・なによっ?」

キッと睨みつける由香。そんな由香に、男はニタニタと汚い歯を見せながら、とんでもないことを話し出した。

「へぇへへへ。おじょーちゃん。今日も見せてくれるのかい?」

「え?」

「昨日見せてくれた、おじょーちゃんのアソコが頭からはなれないんだよ。うへへ・・」

「なっ!? なに言ってんのよ!!」

いきなり何を言うのかと戸惑う由香に構わず、男は話を続けた。

「へっへっへ・・・・。ピンク色できれーだったよ。なあ、今日も見せてくれるんだろ?」

そう言って由香のスカートの中に手を伸ばしてくる男。太股の奥に汚い手をするりと入れると、下着越しとはいえ由香の股間に男の指が届いてしまった。

「きゃ!?」

「ここだよ。ここ。へっへっへ。今度は触ってもいいんだよねぇ?」

「いっ! いやっ!!」

必死に男の腕を押さえつける由香だったが、股間にあてがわれた指先がグリグリ動くのを止めることはできなかった。

「あっ・・・・! や・・やだぁ!!」

「うえっへっへ・・・・。そういえばアソコのすぐ横に小さなホクロがあったよねぇ。あれも可愛かったなぁ・・・・」

「!!!。いっ・・・・いやーーーっ!!」

ドンッ!!

感極まって男を跳ね除けると、ダッシュで駆けていく由香。走りながら由香の頭は混乱しまくっていた。男が最後に言った言葉。あれはデタラメではなかったのだ。自分しか知らないはずのホクロのことをなぜ知っていたのか。その疑問が解けることは決してなかったのである。

こうして由香の最悪の一日が終わったのであるが、実はその前日から悪夢は既に始まっていたのだった。そして、今日以上の恥辱が待っていることに、このときの由香には知る由もなかった。

霧の中にたたずむ妖しげな建物・・・・。『カオスカナル』の中に、あの春美が入って行った時から・・・・。

 

      <第2話  〜由香と春美〜 Vol.2 春美<1> に続く・・・・>

 

 

 

 

 

 

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《注意》

この物語はすべてフィクションであり、登場する如何なる人物、団体、国家、人種、地名及び地域等、すべてが架空のものです。また、男性にとって有利とも受け取れる女性の心情に関する心理描写、及び身体機能の記述は、すべてが事実と異なる誤ったものです。

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